大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)923号 判決 1983年11月30日
控訴人
大興株式会社
右代表者
坡山重一
右訴訟代理人
仁井谷徹
被控訴人
松村眞一
同
新庄重信
同
丸岡明夫
被控訴人ら訴訟代理人
遠藤幸太郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1の事実及び同2ないし4の各(一)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によると、被控訴人松村は昭和五七年五月二五日到達の書面で、被控訴人新庄、同丸岡は同年六月三日到達の書面で、控訴人に対し、栗東ショップセンターが約定の日に開業しなかつたことを理由に債務不履行に基き、本件店舗賃貸借仮契約を解除する旨の意思表示をなしたことが認められる。
二そこで、右債務不履行の成否について判断する。
被控訴人らは控訴人と同ショップセンターの開業を、被控訴人松村は昭和五五年四月、被控訴人新庄は同五四年一二月、被控訴人丸岡は同五六年五月と約定した旨主張し、前記被控訴人ら本人尋問の結果中には右主張に添う供述がある。しかし、<証拠>によると、控訴人は同ショップセンターの開設について、昭和五四年七月二三日大店法第三条第一項の届出をし、同年一一月一九日同条第二項の公示がされ(同法第四条第一項により、同ショップセンターの開業は右公示の日から七月を経過した後となるが、<証拠>に明らかなとおり、被控訴人らの店舗賃貸借仮契約書にもそのことが記されている)、又、栗東町商工会商業活動調整協議会は、控訴人の右届出に基き、同ショップセンター開設の事前審査を行い、同五五年六月一一日栗東町商工会に対し、同ショップセンターの開店を同五六年一一月一日と定めて答申していることが認められるのであつて、右事実に照らすと被控訴人らの主張はたやすく採用することはできない。
しかしながら、前認定の諸事実、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
控訴人は前記届出ののち、同ショップセンターのテナント九〇店の募集を始めた。控訴人は、当初ショップセンターの開店を昭和五六年春として、被控訴人松村、同新庄らと本件店舗賃貸借仮契約を締結したが、前記答申がなされた同五五年六月一一日以後は、同ショップセンターの開店は同五六年一一月一日であると被控訴人松村、同新庄ら仮契約者に説明し、又、被控訴人丸岡他と新規に開店を同日として店舗賃貸借仮契約を締結した。
同ショップセンターは旧ボーリング場の建物を改造して使用するものであり、工事は同五五年八月中に完成する予定であつたが進捗せず、又、右答申に付せられた同ショップセンター前道路の拡幅工事にも着手せず、そのうえ店舗賃貸借契約者の数も少いため、同ショップセンターは確たる開店の目途がたたないまま昭和五六年一一月一日を経過した。しかし、控訴人は同月一七日大店法第五条第一項の届出をし(控訴人を取纒めて代行した)、同ショップセンターの開業を同五七年四月二一日とした。他方、控訴人は同ショップセンターの開店を同年三月とする広告を配布する等もした。その間、被控訴人らを含む店舗仮契約者らは商人会を結成し、控訴人に対し再三早期の開業を求めたが、控訴人は開業の遅延は詫びるものの開業の時期については明言を避け、徒らに引延すのみであつた。
そこで、被控訴人新庄、同丸岡は同五七年四月六日及び同年五月一日到達の書面で、被控訴人松村は同年四月一七日到達の書面で、控訴人に対し同ショップセンターの早期の開業を求めると共に開業の目途を質したが確たる回答が得られなかつたため、前認定のとおり本件店舗賃貸借仮契約を解除する旨の意思表示をした。そして、被控訴人らの他にも右仮契約を解除する者が相次いだ。
控訴人は同ショップセンターの一部を直営とし、昭和五七年一一月に至り漸く開店した。
以上の事実が認められ、<反証排斥略>、他に右事実を覆すに足る証拠はない。
右事実によると、控訴人は、被控訴人らに対し、栗東ショップセンターの開店を昭和五六年一一月一日と定めて同ショップセンター内店舗の賃貸借仮契約をしたにも拘らず、右期間に開店せず、その後も確たる目途のたたないまま開店の時期を順次遷延し、被控訴人らの早期開店の要求に対しても誠意ある態度を示さないで経過したものと認められるから、控訴人は被控訴人らに債務不履行責任を負うものというべきである。
三前記説示によると、控訴人と被控訴人ら間の本件店舗賃貸借仮契約は控訴人の債務不履行により解除されたものである。したがつて、控訴人は被控訴人らに対し本件各契約金及びこれに対するその受領の時から年六分の利息を付して返還すべき義務を負担する。
控訴人は、右契約金は解約手附であるから返還を要しないと主張するが、右仮契約は控訴人の債務不履行によつて解除されたのであるから、採用することはできない。
四よつて、被控訴人らの請求を認容した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(石川恭 仲江利政 蒲原範明)